未来なんてまったく不確定なものだ。一分一秒後ですら何が起きるかわからなかったりする。 年数を増やせばそれ以上に量りかねる。当たり前だけど予知能力の類なんぞ持ち合わせてもいないしね。
つまり、あの頃のあたしにだって勿論、この今現在を想像出来るわけがなかった。あの頃の自分に今のあたしの姿を見せてやったものなら、一体どんな顔をするものかある意味気になるところではあるけど―――とにかく、思い描いていたものとは程遠い。

・・・だってまさか。よりにもよってその、・・・こいつとだとは夢にも思っていなかった。











「ゼロス?」

反応はない。
彼はこちらに背を向けるようにしてソファに寝そべっている。

「もしかして眠ってんじゃないだろうね?」

さっきまで軽口叩いてたのに、と訝しがりながらも、もう一度、今度は耳元で名前を呼んだ。

「ちょっと、ゼロス?」

呼びかけにはやはり同じく、無反応。背中を向けられているせいで顔が見えない。
ああもしかしたら寝たフリをしてるのかもしれない、そう思った。もしくは内心、嬉々としてこちらの反応を窺っていたりするのかもしれない。
・・・なんて普通、そんなことを疑ってかかったりしないのだろうけど、こいつのことだからありえないとは言い切れないのだ。
現にこのあいだ、今と同じようにソファの上に寝転がっていたので、すっかり眠っているものだと信じ込んで、自分にしては思い切ったことを、頬にキスを落とした。ところがなんと狸寝入りだったらしく、(本人は「おいおい、しいなが勝手に勘違いしただけでしょーが!」と豪語していたけど、狙い通りと言わんばかりににやにや笑っていたから、やっぱりあたしの反応を窺っていたのだと思う)後々、そりゃあもう盛大にからかわれてしまった―――という腹立たしくもこっぱずかしい出来事があったところなので、こちらとて疑心暗鬼になってしまうのだった。

仕方が無いので肩を軽く揺さぶってやった。彼はごろん、とこちら側に寝返りを打ち、眉根を寄せて小さく唸った。が、その眉間の皺も、あたしがひとつ瞬きをしたあとにはすっかり消え、穏やかな寝顔に変わっていた。

「・・・」

一瞬だけ考え込んだ結果、寝室から、半ば引き摺るようにしてブランケットを持ってきた。洗濯したばかりだからか、顔を寄せるとほのかに洗剤のにおい。同時に、なんとなく太陽のにおいもした。
これで寝たフリだなんて言ったらあたし本気で怒るからね、と誰も聞いてないだろうに一人で呟きながら、だらしなく捲れたシャツの裾の上からそっと掛けてやる。いつもふたりで使っているブランケットだから大きくて、二つ折りにすると丁度良いくらいだった。

ソファの足元の絨毯の上にへたりと座り込むと、覗き込むようにしてゼロスの様子を窺った。静かな空間に聞こえるのは、規則正しい寝息だけ。

(・・・ったくもう)

世話を掛けるんだから、なんてぼやいてみる。だけどその実、馬鹿みたいに頬を緩ませているのだからどうしようもない。言ってることとやってることがちぐはぐだ、って言うのはまさにこういうことを言うんだろう、と自分で思った。
だって、こうして見るとあらためて感じるのだ。ゼロスは端麗な顔立ちをしている。本人も自分で自分を格好良いなんてよく言ってるけど、あながち自惚れではない。 と言ってもまあ、普段は調子にのってへらへらしていることも手伝って、そんなこと微塵も思わないけど―――それでも絶対本人には言ってやるもんか、と心に決めている。他意はない。ほんのちょっとだけ悔しかったりはする。

「だって女のあたしより髪も肌も綺麗じゃないか」

嫌になっちまうよ、と拗ねたように筋の通った鼻をつまんでやると、ゼロスの右手が大儀そうにふらふらと伸びてきた。あ・振り払われるかな、と思っていたのに、ちょうど伸ばしていたあたしの左手を探し当て、ぎゅっと握りこまれる。
一連の動作に、まさか起きてるんじゃ、と心臓が跳ね上がった。けれどやっぱり瞼は閉じられたまま。

「驚かせんじゃないよ、もー」

悔し紛れにもう一度、今度は頬を抓ってやったけど、固く握られた手は離されそうに無い。
安心しきったような寝顔。こうしてじっと手を繋いでる今だと、どうにも幼い子供のようだと思えてしまったりした。
(ま、こんな手の掛かる子供はそうそういないだろうけどね)
すっかり夢見心地の彼を、今度はあたしがからかう番なのかもしれない、と、目覚めるまでこのまま待ってやろう、なんて考えると、また頬が緩んでしまっているのだった。




        ゆめうつつ



(幸せ。それはこの掌の中にある)







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ED後ゼロしい・甘々or嫉妬話ということで甘々をチョイスしてみました。なんか新婚さんいらっしゃ〜いみたいなことになったのは仕様です… ゼロスはこれねー起きてるんだと思います。奴はしいなより何枚も上手な奴だと良いなという私の希望なのです(どんな)。
というわけで、宜しければリクされた方のみお好きにどうぞっ!お待たせしてしまって申し訳ありませんでした・・・!

(20070605)


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