「この先にヴァン師匠がいるんだな」



「ええ、おそらくね」



(これで本当に最後なんだ)
思わず逸る鼓動。長かった道程はもうすぐ終りを迎える。
ひとつ大きく深呼吸をしたが、緊張のあまりだろうか。肺に空気が入っていく気がまるでしなかった。
(最後、か)



自分達が信念を貫き通せたそのときに、世界は預言という道標を辿るのではなく、自らの足で歩んでいくために生まれ変わってゆくのに違いない。自分の未来は他の誰でもない、自分自身で掴む。そんな世界に。 しかし其れをこの目で最後まで見届けることは出来ないであろうことが、僅かに心残りではある。 それでも今、隣に並んでいる仲間たちがきっと預言の無い世界を導いてくれるだろう。 ・・・根拠がある訳では全く無い。自分は此処にいる仲間たちを心底信じている、多分ただそれだけなのだろう。

そう、自分は新たな世界を共に創っていくことも共に生きていくことも出来ない。 だからこそ、出来ることは最早ただひとつ。
(負けるわけにはいかないんだ)
長く連なる、最上階へと続く階段を見上げる。―――上りきった先、うっすら光を放つあの先にはあのヴァン師匠が、いる。 あのひとには真っ先に伝えなければならないことがある。如何しようもない程に憧れて止まなかったあのひとにこそ、伝えなければならないことが。
何時だってアッシュと等しく自分の存在を認めてもらいたかったけれど、本当に大切なのはそんな事ではなかったのだ、と。 此処にいる自分は確かにレプリカだ。だけど”ルーク・フォン・ファブレ”という本物に限りなく近い偽物、なんかじゃない。本物に限りなく近い、けれども全くの別物だ。 誰に認められようが認められまいがなんて関係無かった。等しく認められる必要など何処にも無かった。 見てきた世界や培った感情も、抱える想いだってこんなに違ったのだ。
だから今ならそう言える。言わなきゃならない。
「師匠」と呼んだあのひとと決別するために・そして「師匠」ではなく「ヴァンデスデルカ・ムスト・フェンデ」というひとりの人間と対峙するために。



「行きましょうか、ルーク」



この背を押すかのように、華奢な手が優しく腕に添えられた。
彼女もまた「兄さん」と呼んだあのひとと決別しなければならない。違えた道はもう交差することは無いのだろう。 添えられた指先が僅かに震えているのを感じて思わず、その手に自分の左手をそっと重ねた。
出来る事なら本当は戦いたくなんて無いのは、自分も同じだ、だけど。



「・・・ああ」





―――さあ。終わらせよう、全てを懸けて。










の射す方へ






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2006,April 12


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