ありがとう、僕のいちばん大切、な―――



その言葉が最後まで紡がれることは無く、赤毛の少年の腕の中でがくりと細い首が項垂れた。 途端、みるみるうちにその身体が透けていく。
(ごめんなさいごめんなさいごめんなさい)(いやだ、いやだよ)
一瞬。ほんの一瞬だった。どんどん色を無くしていくその姿を見ていられなくて視線を逸らした次の瞬間にはもう、 幾ら目を凝らしてみてもほんの数秒前には確かにあったはずの、あのひとの温もりは何処にも見当たらなかった。 綺麗な緑色の髪も、すこし華奢な身体も、優しい声も微笑みも、何ひとつ残されてはいない。 導師守護役が守り抜かねばならない筈の導師が、あろうことが守護役のこのわたしの所為で―――。
(イオンさま・・・!)







◇ ◇ ◇








「・・・っっ!」



声にならない叫びをあげて飛び起きるとそこは、見慣れたダアトの宿屋だった。 いやに乱れている呼吸を整えながらベッドの上に小さくうずくまる。幸いなことに、両隣で眠るティアとナタリアを起こしてはいないようだった。

―――それにしてもまたこの夢、か。一体何度見たのなら気が済むんだろう。

頭ではそうしてちゃんと今の状況を冷静に判断出来ている。
しかし、まるで未だ夢から醒めきっていないとでもいいたげに指先はかたかたと震えている挙句、早鐘のように打つ鼓動は止みそうにも無かった。
目を閉じただけでも鮮明に浮かぶのはあまりに弱々しい、だけど変わらず慈愛に満ちたあのひとの最期の微笑みだ。
(イオン、様・・・)
ぎゅ、と、肌身離さず身につけていた第七譜石のかけらを握り締める。 ルークが拾っていてくれた、あのひとが最期に詠んだ・・・わたしが詠ませてしまった譜石の、かけらだ。
なんて浅はかなのだろう。全てが始まった時点で結末は簡単に、それでいて明確に予想出来ていた筈だというのに。 この期に及んで、未だその姿を夢にまで見ている自分はどうしようもなく愚かなのかもしれない。彼の遺したかけらひとつだって棄てるどころか、こうして縋りついてさえいる。

あのひとの命を盾にして、肉親を救おうとしたのは誰だ?
モースの手駒となり仲間たちを騙し続けたのは誰だ?
それなのに結局、なにひとつ切り捨てられていなかったのは誰だ?

(ぜんぶ、わたし)
それなのに。誰もわたしを責めなかった。誰もわたしを追い詰めなかった。
今でも、そうだ。
いっそ、裏切り者と軽蔑されていたのならどれほど救われたのだろうか。
突き放され独りぼっちになってしまえばどれほど気持ちも楽だったのだろうか。
それでも誰ひとりとしてわたしを責めやしない、彼らの優しさはむしろ、

そして最初から最期まで裏切り続けたこのわたしに、あのひとが確かに伝えた「ありがとう」は、 どんなに罵られるよりもどんなに汚い言葉を吐き捨てられるよりも、身が捩れそうな程苦しかった。
殺してしまったのはわたしだというのに。ああ、もしかしたらこれも、















2006,March 17







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