夜の海が見たい。 そう言い出したのはティアだった。 海辺に停めたアルビオールから一歩出ると、潮風が勢い欲髪を掠めていった。 辺りは薄暗く、満月だけがぼんやりとした光で海面を照らし出している。 そういえば、あの夜もこんな風に月が綺麗に出てたっけなあ、とルークは無意識のうちに呟いた。 「なにか言った?」 「いや、なんでもないよ。それよりティア、ほら、足元危ねえから」 ルークはティアの手をとった。 かん、と金属質の乾いた音を立てながら、肩を並べてアルビオールの翼の上を歩く。 遡ること―――そう、数年前。ふたりが腰を下ろしたのと同じ場所に、同じように座り込んだ。 もっとも、あの夜彼らの間になんとなく置かれていたような微妙な距離は今はなく、連れだって寄り添っている。 「ティア、寒くないか?」 「ええ。大丈夫よ、ありがとう」 交わした言葉はそれきりだった。というより今の自分たちに言葉なんて必要ない気がした。 ざざ、と押し寄せる波の音に耳を傾ける。 夜の海の向こうには、崩壊した―――レプリカ大地であるホド島の瓦礫が未だ遺っている。 あの夜にはホドは確かに浮かんでいて、終わらせるんだ、とそれを前に臨んで決意を示して。 だけど翌日に最後の戦いが迫っていたという現実とは反して、とても穏やかなときが流れていて。 ティアが居て、仲間が居て、心から幸せだと。 あんなに満ち足りた夜が来ることはもう二度と有りやしないと思っていた、けど。 とん、と右肩に僅かな重みを感じて、ルークははっと我に返った。 ティアの小さな頭が寄り掛かっていたのだった。 ルークは思わず小さく微笑んだ。とてもじゃないけれど考えられなかった、考えたくとも考えられなかった関係だって今此処にあって。 「なあティア」 寄りかかるブロンドの髪をさらさらと掬いながら声を掛けた。 なに?と聞き返すティアに、言おうか言うまいか悩むかのように少し視線を泳がせる。 「えーっと・・・」 「なによ」 「やっぱりやめとく」 「気になるじゃない」 「・・・忘れてくれ」 「先に何か言おうとしたのはルークよ」 ぐっ、と怯んだルークは俯いて押し黙ると、しばらくしてから、「わかったよ」と、ようやく覚悟を決めたかのように彼は小さく咳払いをした。 「あのとき、ずっと俺のこと見てくれるって言ってくれたよな?あの言葉って今も有効?」 「・・・え?」 ティアが目を丸くしたのを見て、やっぱり言わなきゃよかった!と後悔した。 みるみる恥ずかしくなって思わずそっぽを向く。 ああくそっ、俺の馬鹿! けれど、「当たり前でしょう」と穏やかな声がするのにはそう時間は掛からなかった。あらぬ方向を向いていたルークと視線が重なると、ティアは彼の蒼い瞳を見つめてゆっくりとその口を開いた。 「・・・明日も明後日も、ずっと貴方のこと、見てるわ」 微笑んでいるさまは、あのときと同じように月明りに照らされて綺麗で。だけどあのときはどうしても言えなかった「ありがとう」が今は心から素直に言えるのだ。やっぱりまだ、さっきの照れ臭さが後を引いてるけど、でも。 だから俺も、言わなくちゃならない。ようやく言えるこの言葉を。 「・・・俺だって、明日も明後日も、ずっとお前の傍にいるよ」 ―――今ならやっと、約束できるから。 |
******************************* このふたりには幸せになってほしいよ本当に! リクはED後アルビオールから海を眺めるルークとティア、ということでした。 というわけでユキさまに捧げます。リクエストありがとうこざいました! 2006,July 28 |
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