即興の適当な鼻唄を口ずさんで、そのリズムに合わせるようにサンダルの底をかつかつと踏み鳴らして歩く。左手にはスーパーの買い物袋を、ぶらぶらと前後に振り下げていた。袋の中身は山ほどの酢こんぶと、糖尿寸前男に頼まれたファミリーパックの棒アイス五箱(銀ちゃんは最近、主食がアイスなのだ)(これ以上血糖値上がってもしらない)。右手にはもちろん、いつもの通り大きな傘を差している。


今日もうだるような炎暑だ。夏の日盛りに外にいるわけだから暑いのは当然のことだけど(帰ったら買ってきたアイス、一箱ちょろまかしてやろう)。わざわざ遠回りをして、日陰になってそうな路地裏を帰り道に選んだのに全然暑い。そりゃあ並び立つ建物の陰のお陰で日の下よりは空気がひんやりしてる気がしないでもないけど。それでも暑い。水分蒸発して干乾びそう。冗談抜きに。
・・・なんて思ってたら、こんな真夏日に全身真っ黒でかっちりした装いの十人ほどの男―――真選組の人間が、ちいさく視界に入ってきた。うわあ相変わらず見てるだけで暑苦しい連中。格好もだけど男所帯ってのがまた。
その集団を取り纏めるように立っていたのは、薄茶色の髪をした見慣れた青年だった。ってそーごの奴じゃんかヨ。その名を心の中で呟く。そういや隊長とかなんとか言ってたっけ、とおぼろげながら思い出した。

彼らは、いたく真面目に話し込んでいるようだったが、かと言って別にわざわざ避けていく理由もつもりもなかった(普通は物騒な真選組の面々なんて避けて通るらしいと聞いたけど自分には関係ない)。サンダルが軽快な音を立てて、徐々に距離が縮まっていく。とん、と小石を蹴ってみると、その気配を感じ取ったのか、はっと振り返った彼らのその表情は驚くほど鋭いものだった。が、それも一瞬のことで、瞬きを一度してみればいつも通りの飄々とした沖田がこちらを向いていた。



「なんだ、チャイナじゃねえか。何やってんだこんな所で」
「別に。たまたま通っただけヨ。・・・お前らこそ何やってるアルか」
「・・・あーそうさなァ、打ち合わせってとこかねェ」
「打ち合わせ?」
「ああ、ちっとばかりキナ臭ぇ連中がこの辺うろついてるらしくてねェ。ったくこんな真っ昼間から迷惑な話でさァ」
「ふうん。あっついのに大変アルナ。つーかお前ちゃんと仕事してたんだな」
「ほっとけ。・・・もう暫くしたらこの辺騒がしくなりまさァ。ま、アンタは強いから心配無用かと思いやすけどね、あぶねーから一応この辺からは離れときな」



ポン、と頭に乗せられた手。
妙に子ども扱いされているような気がする。気に食わない。お前だってガキのくせに。かと言って大きな手を振り払う気もなぜかおきなくて、だからせめてもの抵抗で眉根に皺を寄せてみせた。



「えええええ沖田隊長!?」
「沖田さんが他人の心配するなんて!なにかあったんですか!」
「もしや副長の暗殺に成功したとかなんかそんなんで浮かれてんですか!」
「・・・・・・テメーら、俺を何だと思ってやがんでィ」



貼り付けられたような気味のわるい笑顔を浮かべながら、沖田の手が一隊士の胸倉を掴んだ。すすすみません隊長ちょっと口が滑りましたと隊士が上ずった声をあげている間に、さあ行った行った、と別の隊士に背を押され、つまみ出される。なんだヨ。少し離れて電柱の影からひょっこりと顔を出した。ついでに彼らの佇む方向に向かってべえ、と舌を出す。だって、半ば強制的に追いやられたかのようでいい気がしない。
視線の先の彼らはさっきまでの様子が嘘のように、再び話し込んでいるようだった。おまけに指揮を執っているのはあいつで、ちゃんと仕事やってんのなんてほんとに初めてみたかもしれない。そう思うと少し笑えた。





眩しい!

視線の先で、きらりとなにかが光った。

太陽の下に晒されたあいつの白刃だった。討ち入り前、だからなのだろうか。自らの鋭い刃を嗜めるかのように、それを翳している。
目が、逸らせなかった。緩く上がった口端は、絶対的な自信に満ちていて。何時になく伏せられた瞳だって飄々としていたさっきのそれとはまるで違う。見えないなにかを見ている気がした。刀を振るうわけでもないというのに、身震いしそうなほど静かな瞳。あんな目で射抜かれたら自分だってきっと。






慌てて踵を返したのは、足元に滴ってきたべっとりとした水滴に、袋の中のアイスが大惨事になっていることに気がついてからなのだった。






        夏の魔物











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タイトルは某バンドの歌から拝借しました(今更ですがウチのサイトそういうの結構あります)。
リクは沖神、シチュ等はお任せということでほんとに好き勝手書いてやがりますよこの女!(・・・)
えー、というわけで信愛なる野菓さんに捧げます!こ、こんなもので宜しければどうぞーっ!

2006,August 6
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