メイク・マジック!






「・・・気分悪ィ」



ぐるぐると渦巻くなんとも言えない不快感を覚えて目を醒ますなり、口から自然と出た台詞はそれだった。 その次にはひどい胸やけを感じて、思わず顔をしかめる。起き上がろうとすると身体は鉛のように重く、そのうえ突然頭の奥底から響いてきた鈍い痛みも相俟って遂に、ああもうこれは完全なる二日酔いだなと自己完結した。
元来酒に強いか弱いかと言われると、間違いなく強い部類に入るのは間違いないんだけど。何でこんなになるまで飲んだんだっけな。

寝癖のついた髪をわしわしと掻きながら、記憶の糸を辿る。

断片的な記憶しか見当たらないのが些か不安だが、 そもそも昨晩の飲み会は、女に振られて悲しみに明け暮れていた近藤さんの自棄酒に、十数名の隊士が半ば無理矢理に参加させられたことから始まったのだった。自分も取り敢えず酒が飲みたかったので、深夜の巡回をサボってそれに飛び入り参加した、わけだった。

・・・そう、そこまでは良かったのだ。ホラー映画よろしくどんよりとしたオーラを放つ近藤さんのことは誰か他の奴に任せておいて、自分は晩酌を楽しむだけのつもりだったのだから。
しかし何を思ってか、アルコールの回りが妙に速い我等が局長は程よく酔ってきたところで此方へやって来ると、「総悟にはコレ」とかなんとか言って、 卒倒しそうなほどに度の強い酒が目一杯注ぎ込まれたグラスを、わざわざ勧めてきたのだった。幾らなんでもこれはないだろ、と突っ返したくなる衝動に駆られたが、とはいえ自分だって、傷心と思われる近藤さんの勧めは拒否出来ない。断ったら途端にこのひとは泣き上戸に変貌するような気がした。
仕方なく喉が焼けつきそうなのを我慢して一気に飲み干したが、グラスが明けば次から次へと同じ酒が注がれていたのはどういうことなのか。 その先は記憶の方がすっかり飛んでしまっているのだが、恐らくそのまま眠ってしまったのだろう、今に至るわけである。
周りには自分と同様に、何とも情けない格好で寝そべっている隊士たちの姿も見受けられたが、 それでもごく一部の生真面目な者は二日酔いなど何のその、朝の巡回に出掛けたようだ。つくづく、自分には無い甲斐性だと思う。

「・・・それにしても酒臭ぇ部屋」

閉め切っていた部屋の中は、むせ返るほどの匂いが充満している。こんな処に居たら、只でさえ吐き気がするというのに余計に気分が悪くなることは間違いない。
おもむろに立ち上がると襖を開けて、外の空気を吸いに出ようと、ふらつく足取りで長い廊下を渡った。 こんな体調じゃ仕事もやる気出ないし、今日はサボらせてもらおう。いや訂正、今日もサボらせてもらおう。
立て付けの悪い引き戸を開けると、感じたのは爽やかな朝の空気!かと思いきや、案外風が冷たくて、背中を丸めながら軒先へと歩いた。屯所の門をくぐったところで、周囲をきょろきょろ見回す。土方さん辺りに見つかってしまうのは厄介だからだ、こんな調子の悪い時なんか特に。無理矢理引っ張り出されるのは御免だ。だから、ひとつ向こうの曲がり角から足音が聞こえてくると、思わず門扉の裏へと回った。
が、その割にあっさりと身を隠すのをやめたのは、それが土方さんのものでもなく他の隊士のものでもなく、彼女のものだと分かったからだった。

「よおチャイナ、奇遇じゃねーか」
「誰かと思えばお前かヨ。・・・うわ、あんまこっち寄るな何か酒臭いネ」

神楽は沖田の傍に寄るなり、眉を顰めた。

「会って最初の台詞が酒臭いとは何でィ」
「だって事実アル、さてはキャバクラ遊びでもしたか」
「俺がそんな遊びする奴に見えるかィ?」
「男はみんな獣ネ」
「何それ、クソガキはそんな言葉知らなくていいってーの」
「んだと?テメーもガキだろーがァ」

沖田は、何時ものように掴みかかって来る神楽を何時ものように掴み返すことをしなかった。
代わりに押し返すように右手で制すと、ああもうわかった俺もガキだから耳元で喚くのはやめろィ、頭に響くから! と、げんなりした表情を浮かべて、空いていた左手で自分の耳を塞いだ。
平素と違ったその様子に神楽も、おや?と、沖田の胸倉を掴む手を緩めた。

「どうしたアルか?」
「二日酔いってやつでさァ、頭いてーわ気分悪いわで」

だから頼むからさっきみたいに大声出すのやめてくんない?と半ば懇願するかのように言った。
神楽はふうん、と頷いたが、突然沖田の額に手のひらをぎゅっと押し付けた。そして、何かを感じ取るかのように目を閉じた。
沖田は、神楽の伏せられた瞼から伸びている睫毛に、随分長いなあと妙に感心しながらも、しかしさすがに突飛なその行動には思わずぎょっとしていた。不快なわけでは決してなかったが、何すんでィ、と声を上げようとしたところで、ひんやりとして心地のよかった彼女の手がぱっと離れる。同時に甲高い声が響く。



「痛いの痛いのとんでけアル!」












「・・・何それ」



数秒間経ってようやく、とても自分のものとは思いたくない間抜けな声が飛び出した。

「知らないアルか?元気になるおまじないヨ、姉御に教えてもらったネ」
「はァ」
「頭痛いの治ったアルか?」

治るわけが無いだろーが、という台詞は呆れ果てたあまりに喉元で止まってしまった。 何のつもりかさっぱり解らないが、そもそもこんなので治ってしまったものならコイツは超能力者か何かだ。

「つーか痛いのとんでけってな、俺ァ子供か、お前は母ちゃんか」
「何言ってるアルか、お前みたいな息子は絶対嫌ネ」
「俺だって、こんなアホみたいなまじないする母ちゃんは御免でィ」
「あんだと?お前、このおまじない侮辱する気アルか!?」
「侮辱っつーかなんつーか、まあそうだけど」
「お前、人の好意を何だと思ってるネ!」

え、これ好意だったの?と驚く前に、つんざくような高い声が耳を貫通した。
おまけに着物の襟を引っ掴まれて揺さ振られて、脳味噌がシェイクになりそうだった。こんなことなら土方さんに見つかってた方が全然マシだ。もとより、こんな好意の示し方は御免被りたかった。
揺さ振られ続けた結果、そろそろシェイクを通り越してペースト状になりそうな脳味噌に、コレも好意の示し方?と不安を覚えながら、そもそもまじないってのは呪いって書いてのろいとも読めることを思い出した。だとしたらこれは間違い無くのろいの方だ、さっきのはまじないじゃなくてのろいを掛けられたんだ、とはじめより何倍も酷くなった頭痛に歯を食いしばりながら思った。






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わかりにくいな!
頭でっかち尻すぼみな話になってしまった

2006,May 3




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