春の歌***




(全く、黙ってりゃそれなりなんだがねェ)

公園のベンチに深く座りこんで、すやすやと寝息を立てている少女を呆れた表情で眺めながら、 心の中でそんな悪態をついた。
人間にはあり得ない、少し色素の薄いピンク色の髪に、あまりに白く透き通るような肌。 そういえば彼女は天人なのだなと今更ながら思い出す。 まあそんなことはどうでもいいんだけど。
思い起こせば数分前、寝こけているこの姿を巡回途中に見つけた瞬間は、例の如く盛大に叩き起こしてやろうかとも思ったのだが、後で「寝込みを襲うなんて最低アル!この卑怯者が!」 とか何とか口やかましく言われそうな気がしてきて今ではすっかりその気も失せていた。
それならどうしたものかと暫し考えてから取り敢えず、彼女が腰掛けるベンチ、丁度ひとり分空いていたその隣に腰を下ろしてみたものの、 他人の気配に気付く事なく寝息ひとつ乱さないのはやっぱりどうかと思う。自分も大概人のこと言えないくらい居眠りはしてるけど。

そしてそれはただ、何となくだった。眠っている彼女に触れてみようと思ったのは。敢えて言うなら気まぐれな、悪戯心のようなものだ。
そうっと手を伸ばして雪のように白い頬に触れてみた瞬間、 彼女の唇から零れたくぐもった声に、げ、と一瞬だけ心臓が跳ねた。しかし直ぐに、穏やかな寝息が再びリズムを取り戻す。 ほっと安心した反面、何だか面白くないと思うのも事実で。目を覚まして欲しいようで、だけどまだこのまま眠っていて欲しいような。
一体どうしたいんだ自分は、と自問してみたところで、突然ずしりと右肩に重みが加わった。 それが、隣で眠る少女が此方へと身体を預けてきたからだ、と理解するのにそう時間はかからなかった。 相変わらず安心しきった表情で、無防備に眠りに落ちている彼女に思わず苦笑が零れる。
この状況を見知った誰かが見ていたら何というだろうか。 このふたりが仲良く寄り添って寝ているなんて明日は槍でも降るんじゃないか、なんて言われるかもしれない。
・・・まあそれも悪くはない。むしろ本当に槍でも降ってくれりゃ面白いのに(そして土方さんに刺さっちまえばいいのに)、 と小さく笑いながら、ゆっくりと近づいてきた暖かいまどろみに、そっと瞼を閉じた。







2006,March 11




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