束の間の遊泳






女声、しいて言うならばソプラノの、とにかく甘美で柔らかく心地よい声色で奏でられたひどく美しい旋律は呟きのように小さく、彼女の唇から零れ落ちていく。何時もと同じく急かされるように慌ただしい時間が過ぎていくこのホームの中で今、僕とリナリーの間で流れている時間だけはゆるやかなそのメロディーに乗せられて至極穏やかなものだった。

暫くじい、っと見つめていた所為か、その視線に気付いた彼女がこちらを振り向いたので慌てて掛ける言葉を探す。

「・・・っと、リナリー歌上手いですねえ」

もっと他に良い言葉を掛けられないものなのか、と自分でも思うほどありきたりな言葉を咄嗟に投げかける。
その瞬間、空気のようにやんわりとこの時間を流れていたメロディーがぴたりと止まった。
と同時に、僕達の時間は辺りと同化して、また忙しなく流れ始める。

「そんなことないわよ」
「いえ、だって僕なんてクロス師匠お墨付きの音痴ですよ」

< 師匠曰く僕の歌声は殺人兵器だとか言って、全く失礼しちゃいますよね。
僕がそう言うと、リナリーはクスクスと笑った。つられるように僕も微笑む。

「ところで、さっきの何ていう曲なんですか?」
「この歌?実は私もよく知らないのよ」

でも小さい頃からよく口ずさんでたの、何だか懐かしい曲でしょう?
ニコリと微笑んでそう言ったリナリーに、僕は大きく頷いた。

「もう一度聴かせてくださいよ、リナリーの歌声」
「・・・やだ、そんな風に言われると何だか恥ずかしいじゃない」

リナリーは照れたようにくるりと後ろを向いたけれど、暫くするとまた、さっきのあの甘美な旋律が流れ出した。

知らない異国の言葉で紡がれるメロディー、歌詞の意味なんてまるで分からないけれど。

彼女が謳い上げるメロディーに、今少しだけ身を委ねてもいいだろうか。
目を閉じれば、全てを忘れてふわり宙に浮きそうで。
そう、何の柵にも縛られることなく。
つまりそれは本来ならば自分には全く無縁のもので、これは擬似的で薄っぺらい、ほんの一時のものなのだけれどそれでも。











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アレンが音痴だという自己設定を出したかったんです(…)

2005,October 30





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