「二人の口に合うかは解らないけど」

ハイどうぞラビ、と差し出されたのは湯気を立てたティーカップとケーキの乗せられた小皿だった。チョコレートの甘い香りが鼻先を擽る。
途端、隣に座るアレンの目の色が変わったのがラビには解った。小一時間前まで、任務帰りの列車の中でぐったりと憔悴していた姿が嘘のようだ。そもそも帰ってきてリナリーの姿を見るなり人が変わったように急にしゃきっとしだした解りやすい奴なのだが、食べ物を出された今ではもう表情に曇った影のひとつもない。ホントどこまでも現金な奴だな、とラビは苦笑する。

「これリナリーが作ったんですよね?」
「ええ、この間のお酒の入ったケーキ、アレンくん食べられなかったでしょ。だから今度はレシピを変えてみたんだけど」
「わあ、有難うございます!」
「どういたしまして。―――あら?そういえば神田は?三人で帰ってきたんじゃなかったの?」
「はい、そうなんですけど・・・任務で疲れたって言って帰ってくるなりさっさと部屋に戻っちゃいましたよ。ほんと馬鹿ですよね、リナリーがこんな美味しそうなケーキ作ってくれてたのに」
「そっか、だけど疲れてるなら仕方ないわよね。残念だけど」

・・・ユウの奴、本当は「疲れてる」から此処へ来なかったわけじゃないと思うんだけど。 ラビは声に出さずに心の中で呟いた。
ユウとお互い面と向かって頷き合ったわけでは決してない(というかそれは気持ち悪い)のだが、恐らく思うところは通じている筈。暗黙の了解のようなものだ。だって自分だってこの時この瞬間に居合わせることは出来るのなら回避したいのだから。

―――というのはつまり、だ。



「美味しい!凄く美味しいですよこれ!」
「そう言ってもらえて良かった!まだあるからどうぞ?」
「やったあ、頂きます」
「今度はまた違うお菓子作ってみるからね」
「ホントですか!すっごい楽しみにしますよ僕」
「やだ、あんまり期待しないでね、―――って…あははっ」
「え?リナリー、どうしたんですか突然?」
「アレンくんってば!頬にクリームついてるわよ」
「えええっ、何処ですか?」
「ほら、此処よ此処」

伸ばされたリナリーの華奢な指がアレンの右頬に触れる。ハイ、と、白く細い指先に絡めとられたクリームがアレンの口元へ差し出されると、彼の紅い舌がちらりと覗いた。

「ありがとうリナリー」
「ふふ、どういたしまして」

(・・・おーいおいおい)
余裕のあるときなら未だしも、疲れて帰ってきたときにこうも何時も通り仲睦ましい様子を見せ付けられると、からかう気も起きないというか突っ込む気力もないというか。その場に居合わせている自分ががどうにも居た堪れないというか。俺だって同じように疲れきってる筈なのにアレンにだけ心のオアシスがあることに泣きたくなるというか。
微笑ましいといえば微笑ましいのだが、つまりこの時ばかりは頼むから二人だけで好きにやってくれ、というわけで。当の本人達は周りの事など一切気にしてないようだが、こちらとしてはそういう訳にもいかない。
自分だけとっとと逃げたユウが今は少し恨めしい。敵前逃亡はお前の国の武士道だかなんだかに反するんじゃないのかどうなんさ。


「リナリーは食べないんですか?」
「私はいいわよ。自分で食べようと思って作ったわけじゃないんだから」
「でもほんとに美味しいですよ!ほら!」

はいどうぞ、とアレンは満面の笑みを浮かべながら、フォークをリナリーの方へ持ち上げた。

・・・ハイハイお仲がよろしいことで。








ティータイムをきみと










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ウワアアギャアア恥ずかしい!普段こういう話書かないからこれだけでものっすごい恥ずかしい!全然大したことさせてないのにものっすごい恥ずかしい!一応コンセプトは無自覚ラヴ万歳!ということで(…)
えーとリクは「アレリナの仲の良さに周りが迷惑する話」でした。なんて素敵なリク!ハチさま有難うございました。よろしければお好きに扱ってやってくださいませ。

(20070307)


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