肩を並べて隣で歩く。それはあまりにも傲慢で勝手で、身の程知らずな夢だった。







オルゴールにをかけて  











アレンの右腕にくるくると巻かれていく包帯。
スーマンとの一件で負った傷はほぼ完治してきたものの、左腕を復活させるための特訓のお陰で生傷は絶えないでいた。いつも数時間おきに、彼の包帯を替えているのはウォンなのだが、しかし今日は違った。覚束ない手つきで手当てに四苦八苦しているのは、此処・黒の教団アジア支部科学班見習いこと、蝋花。ことに、アレンが右腕を差し出してから、時既に半刻が過ぎようとしている。彼女はどうにも不器用ならしい。

ぱちん。留め具の音がようやく手当ての終わりを告げたのは、ずっと同じ姿勢で痺れてきたアレンの腕が、そろそろ悲鳴も上げそうなときだった。

「すみません、随分時間掛かっちゃって・・・」

二つに結わえた長い三つ編みを揺らして、蝋花がぺこりと頭を下げた。

「いえ。有難う御座いました、蝋花さん」
「あのう・・・動きにくかったりしないですか?」
「ええ、大丈夫です」

いい感じですよ、と確かめるように右腕をくるくると回したアレンに、蝋花はどこかぎこちなく笑った。
アレンを目の前にすると、どうにも落ち着かなず調子が出せないのは常のことだったが、それとは違う。物悲しげに伏せられた目。なのに無理矢理に上げられたような口角はかえって不自然だ。

(あたしって、本当に馬鹿だ―――・・・)

「蝋花さん?」

どうかしましたか?
ひょこ、と視界に飛び込んできた白髪。銀灰色の瞳がこっちを覗き込んでいる。
このひとは優しい。他人の僅かな心の動きにも敏感に、だけど無意識に気付いて、また無意識に気遣ってくれる。だけど今は、誰にでも向けるその優しさが痛かった。

「エクソシストは・・・凄い、ですよね」

ぽつり。呟くように言った。

手当てをしているときに気付いてしまったのは、数え切れないほどの傷跡だった。幾度とない死線を掻い潜り抜けてきた印がそこらにあって。一体どれほどの血を流してきたのだろう。どれほどの痛みと、悲しみを感じてきたのだろう。大切なものをどれほど失ってきたのだろう。きっと計り知れない。あたしの知らない世界、きっと知らなくていい世界で、彼は戦い続けてきた。そしてこれからもきっと戦い続ける。果たして、何を護るために何を救うために何を思って何を犠牲にしてきたのか。それだってやっぱり、あたしにはわからないけど。

よくよく考えればあたしは、彼のことを知らなくて。なにも知らないんだ。きっとあたしなんかには理解できるはずもない。

・・・・・・遠すぎるのかもしれない。途方も無く。傍にいることだって、決して叶いやしなかった。今、こうして手を伸ばせば触れられるほど近くにいるのに。



アレンがさっきよりもこちらを強く見つめているのが解った。蝋花は目を閉じて言葉を続けた。



「戦場で、こんな傷沢山つくって戦って」

(あたしじゃ、隣になんて立てないんだ)

「支部長たちみたいに立派にサポートすることだって、あたしには出来ないっていうのに」

(こんなあたしじゃ、追いつくことすら出来ないんだ)







それなのに馬鹿みたいに。

―――すきなのに。あたしじゃあまりに役不足じゃない。
ウォーカーさんの傍にいられるのは、支えられるのは、理解できるのは、あたしじゃない。もっと違う他の誰か。
(どうして、今頃になって、)(気付くのが遅すぎるよ、ばか)







「蝋花さん」

宥めるように、しかしはっきりと名前を呼ばれた。

「それでも、蝋花さんは僕の怪我の手当てをしてくれたじゃないですか」

今、貴方がいなければ僕は困ったんですが、と言葉が続く。





ああ、どうしてこのひとは!

―――だけど今のあたしにとっては中途半端でありふれた優しさ。何の意味も為さない。痛い。だってあたしは夢見てしまったから。もしかしたら、なんて。だけど隣で歩けるはずが無かった。
(だからそれは、欲しかった言葉じゃない)
・・・はじめはこんなつもりじゃなかったんだ。こんな風にすきになるつもりじゃなかったんだ。憧れに似たものだと、そう思いこんでいられればよかった。そう思いこんでたらきっと、優しさが素直に嬉しかった。
(ホント、ホントに馬鹿だなあ)
最初から解ってたはずなのにね、こんなの。



(そしてそっと、鍵をかけて)










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捏造しちゃってるなあ。
リクエストは「出来たらアレリナ前提のアレンと蝋花」ってことだったんですが、・・・アレリナ・・・?あれ?いや一応前提のつもりなんですが、そのあたり深読みしないとわかりづらいですよね・・・
・・・うー、なんか色々申し訳ない限りです。こんな作品で宜しければ、リクされた方のみご自由にどうぞ!です!

2006,September 18




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