カチ、と時計の針が12時40分を差し、昼休みの始まりを告げるチャイムが鳴り響いた。 それと同時に、がたがたと椅子を引く音が教室中に溢れかえる。 ようやく午前の授業が終わったと言うのに一息つく間もなく、クラスメート達が次々と教室から流れ出ていく。「起立、礼」と、学級委員の号令はむなしいほどに、まるで意味を為してはいない。 教壇ではその様子に、教師が呆れがちに笑みを浮かべていた。 いつものことだ。 (もうそろそろ、かな) 心の中だけでそう呟くと、あたしも、ぞろぞろと連れ立つクラスメート達に紛れて席を立った。 すっかり喧しくなった廊下に今日もまた。ひとつ向こうの角から、喧騒を掻き分けて、一際騒がしいあの声が近づいてくるから。 あたしは体中の神経回路を張り巡らせて、彼を捜す。 ・・もうすぐ。あたしの世界に現れる瞬間。 (―――3・2・1) 飛び込んでくる藍色の髪。星型の罰則印。着崩した制服。後ろ頭で気だるげに組んだ腕。 ―――――そうして、隣にはあの子がいるのだ。 「あ、そうだ。ねえ翼、あとでさっきの授業のノート写させてくんない?」 「おー、字読めるかどうかしらんけど」 「んなこと最初っからわかってるって、お前の字が異常に汚いことくらい」 ポン、と彼の背をはたいた、あの子をいつだってひどく羨ましいと思う。 容易く名前を呼んで容易くその肩に触れて、そんなのあたしには到底出来るはずがない。 あたしのこんな痛いほどの視線に気付かない彼とあの子は、どこまでもふたりだった。ふたりの中には、どこまでもふたりしかいないのだ。彼とあの子にとってあたしは差し詰め、ふたりを取り巻く風景の一部でしかない。 なんてむなしい! それなのにひどく高鳴るあたしの鼓動は矛盾してるそんなことは解ってる。 「おっと美咲さーん、そんなこと言っちゃって。さっきの授業で爆睡しててノート写してないのは何処のどなたなんだか」 「うるっさいなあ、お前は大人しくノート貸してくれればいいの!」 「いででで、蹴るな蹴るなっ!」 弾けては重なるふたつの笑い声は、いくら耳を塞ごうが、張り巡らせていたあたしの神経回路が勝手に拾い集める。彼(と、あの子)は今日もあたしの前を通り過ぎていった。 これからもずっと想ってるだけでいい。見返りがなくても。だってあたしはそれでも。 それでも。 ただただ息苦しくて、一度だけ深く呼吸する。そしてそっと瞼を閉じた、いつもの昼下がり。 |
************************* 名もなきオリキャラ視点の翼美咲。のつもり。かなり書きやすかったんですが、ストーカーみたいになってしまったなんて言えない(言ってる) ところでタイトルはYUIのうたからです。歌詞の内容とこの話はぜんぜん違うんですけどね 2006,November 12 |
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