「こんなおっきい怪我してっ・・・」
額に巻かれた、うっすら血の滲んだ包帯の上にそっと震える指が伸ばされた。
「これくらいどうってことねえよ。いつものことだし、平気だ」
「平気なことあらへんよ!」
大きな瞳に目一杯の涙を溜めて、彼女は苦しそうに顔を歪めた。
返す言葉が上手く見つけられなくて。仕方なく力無い笑みを作ってみ せると、堰をきったように、潤んだ彼女の瞳からぽろぽろと涙がこぼれた。
泣かせたいわけじゃないのに。
自分の傍にいるせいで、巻き添えになるかもしれないのだ。暗闇に引きずり込む かもしれないのだ。けれどそんなことはきっと、彼女にとって取るに足らないこ とだった。何と言われようとも一緒にいるよ、と燦々と輝くような笑みに自分の未来も照らされた気がした。どれほど救 われたかしれない。だからそんな彼女を自分は、せめて降り懸かる火の粉から少しでも守ってや りたくて、盾になってやりたくて、そのためになら何だってやってやると思ったのだ。 この傷だって、ゆえに甘んじて流した血だというのに。それが結局彼女を傷つけてい るというのなら何の意味も持ち得やしない。
「棗のばか・・・」
嗚咽を押し殺したか細い声だった。
―――頼むから。この世の終わりみたいな、そんな顔して泣くな。泣くな泣くな泣くな。
「みかん」
これ以上涙を見たくなくてどうしようもなくて不甲斐無くて、ただ震えている細い身体をぐっと自分の方へ引き寄せた。



無常モラトリアム




(20070324)



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