待ち人来たらず






・・・遅い、遅すぎる。



美咲は左手首の腕時計を横目に、そう心の中で呟いた。

セントラルタウンに用事があるから付き合ってくれ、と昨日になって言い出したのは翼だった。
前日になってから約束を取り付けるのはやめろ、と過去に何度言ったか知れないが、 幸か不幸か予定は無く、休日を返上して彼の用事とやらに付き合ってやることにしたのだった、が。
約束の時間は午後二時丁度。しかし、ちらりと覗いた腕時計の長針は既に、その時刻を一周りしていた。
大きな溜息をついて、断じて気の長い方ではないんだからあたしは、と呟く。 苛立ちのあまりエイトビートを刻んでいた右足も、そろそろ疲れてきていた。



「ったく、何時まで待たせる気だよあのボケは」



立ちっぱなしでいるのが辛くなってきて、みっともないのは承知の上で、この場に座り込もうかとすら考えた。
のこのこやって来た翼の姿をようやく捉らえたのは、そんな状態に耐えかねて、もう帰ってしまおうかと本気で考えかけた頃だった。
「悪い、美咲」という言葉の割に、大して反省の色の見えない彼をじっと睨みつける。しかし相反して口元だけは、にこやかに微笑んでみせた。



「あれ、つばさー?待ち合わせの時間は何時だっけな」

「・・・えっと、二時?」

「今何時かな」

「・・・えっと、三時?」

「あたしを一時間待たせた罪は重いよ?」

「だーから謝っただろ、それに一応、遅れるーって連絡したつもりなんだけど」



美咲は眉を顰めた。連絡って?
そもそも、この学園内での生徒同士の連絡手段自体なんて見当たらないのだ。技術系の人間が作ったアイテムなんかにはそういう類のものがあるのかもしれないけど、そんなもの自分は持ち合わせていないし、それは彼も同じ筈だ。だから思わず疑問の声を上げた。



「・・・何それ。いつ?どこに?どうやって?」

「さっき・お前の心の中に・テレパシーで!・・・って、あれ?もしかして届いてない?回線おかしかったかなー」



そう言ってわざとらしく首を捻った翼に、心の中で呟いた。
ああ、今のはお前の冗談だったわけね。でも悪いけど、そのお陰であたしもう、臨界点突破だ、と。
一歩翼の方へと近寄ると、目を細めて薄く笑った。 きっとこの微笑みこそが絶対零度の微笑みとかいうのに違いない、彼の顔が引き攣るのが解った。



「何テレパシーって?大丈夫?来る途中どっかで頭でもぶつけたの?」



それならもう一度頭に衝撃加えたら元に戻るかなあ、と高々に掲げてみせたのは握り拳だ。
その瞬間、過去に何度この手痛い拳を食らったかしれない翼は、「冗談じゃん!」と血相を変えて後ろへ仰け反った。



「俺が悪かった、遅れた挙句悪ふざけも過ぎましたごめんなさい」

「そんなの全然気にしてないよ?・・・ねえ翼、何かあたしシフォンケーキが食べたくなってきたなあ」

「うん、わかった!俺が奢るからその拳を下ろせ」



その言葉に、やった翼の奢り!と、手の平を返すように、にっと笑った。勿論、先程までの凍りつくような笑顔ではない。
金ねーんだけど、とぼやく声が聞こえたが、このあたしが一時間の遅刻をケーキひとつで許してやるなんて、安いものだ。

「早く行こ、シフォンケーキがあたしを待ってる!」と項垂れている翼の腕を引くと、「言っとくけどケーキ単品だからな、セットじゃねーからな!」と返ってきた。







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普通のケーキとかこの学園に売ってるもんなんですかね。わからん! しっかしなんでこう・・・うちの美咲は暴力的なんだろう。ドメスティックバイオレンスの兆し?(・・・)

2006,May 4









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