フィールヒーツ





彼の名前が記された目の前のその大きく豪華な造りの扉は、自分の部屋のものとはまるで違った。
流石はやっぱり幹部生、優遇されているだけあるよなあと此処へ来る度妙に感心してしまうのは何時もの事で。 そりゃあまあ自分はシングルなんだし仕方ないんだけど、正直この、能のある者だけが上に上がれますみたいなシビアな星階級制度は、自分みたいな弱い者には本当不利だなあとつくづく思う。と言っても、先日まで星無しだったことを考えれば文句は言えないし別に良いんだけれど。まあ初等部の子たちはほとんどシングルな訳だし、ましてや幹部生だなんて、とにかくそれ程までに彼の能力は群を抜いている訳だ。

そもそもどうして棗の部屋なんかを訪ねているのかと言うと、聞くところによるとどうやら彼は体調を崩して寝込んでいる、と聞いたからだ。 そう言うと何だかあたかも自分が棗のことをひどく心配して彼を訪ねたかのようだけど、敢えてその理由を言うのならばパートナーのよしみで、とかその辺。能力のかたちの事もあるし、ちょっと気になってうっかり様子を見に来てしまっただけ、だ。

でも本当に大丈夫なんだろうか、そう言えばここの所彼は何時もにも増してすこぶる機嫌が悪かったようだし、時折辛辣な表情を浮かべていたりしていた気もする。まさかまた過労、とかそういうのなのかな、もしあの時みたいに苦しんでたりしたら―――







「・・・ってなんかこんなんホンマに心配してるみたいやんか」







付け加えで、別に心配してへんっていう訳でもないねんけどな、とひとり呟いてみたところで誰も聞いていやしなくて。

どうしよう、やっぱり引き返そうかなあ。流架ぴょんやパーマとかも見舞いに来てそうだし別に自分が行かなくても。ああでもわざわざ来たんだしやっぱり大丈夫なのか気になるし・・・ちょっと様子見てさっさと帰ったらいいよな。でもなあ・・・

うーとかあーだとか唸りながら扉の前を行ったり来たりを繰り返して、もう十数分が経とうとしている。







「様子見るだけって言ってもなー」

「・・・お前こんな所で何やってんだよ」

「あーもうどないしよう」

「・・・おいテメー聞いてんのか」

「でもやっぱり折角来たんやしな!うん!」

「・・・」







よっしゃ行くでウチはやれば出来る子や、敵陣に乗り込みや!と最早本来の目的が何だったのかさえ解らなくなるような台詞を吐いた瞬間、後方から誰かにツインテールをグイッと後ろに引っ張られた。それはいきなりの事で、思わずよろめく。







「うわっ何や」

「お前こそ何だよ人の部屋の前で」

「・・・うおっ棗かいな」







慌てて不安定な体制を立て直す。目の前には眉間に皺を寄せて仁王立ちしている棗の姿。
どうやら自分が気付かないうちに傍に来ていたようだった。彼が手に持っていたビニール袋にうっすら薬と処方箋みたいなのが透けて見えたから、きっと病院帰りだろう。 そのまま変な沈黙が流れて、場を取り繕うつもりで何か言おうとしたものの、うっ、と言葉に詰まる。
何なんだもう、ようやく気持ちが固まったところに後ろから現れるなんて反則だ。







「・・・えーと・・・何や、アンタのお見舞いに来てんけども」







見舞い品も無いし手ぶらで申し訳ないねんけどな!と笑ったものの相手は棗だ。
「あっそ」と一言返ってきただけで、後は相変わらず無愛想な面を下げたまま。彼は何も言わない。 そんな年中仏頂面やから女の子にモテへんのじゃバーカ、と言ってやりたいところだけれど、あながちそうでも無いのだから腹が立つ。







「・・・ほんで、アンタ大丈夫なん?」

「ああ、只の風邪だ、もう大分熱も下がった」

「そっか」







何だ風邪か。いや風邪は万病の元なんて言うし侮れないんだけど、とりあえず自分の気に掛けていた状態ではなくて良かった。 にしても、彼も病人な訳でこんな廊下で立ち話するよりもさっさと休みたいはずだろう。 そう思い、とりあえず一安心したことだしほんならお大事になと早々にその場を立ち去ろうとした瞬間、またもツインテールを力任せに引っ張られた。







「ちょっと、あんたさっきから・・・」







2回も人の髪の毛引っ張って何やのよ!と続けようとしたその言葉は遮られた。 抵抗する間もない、一瞬だけ口を塞がれる。自分の唇より彼のそれは少し熱っぽく感じた。







「・・・!」

「見舞いの御礼」

「は!?なっ・・・ちょっ、え」

「日本語喋れよボケ」







熱い。触れた唇から伝わった熱は上昇してそして体中に伝わった気がした。
それこそ指先から爪先まで余すところ無く。
まだ冷め遣らぬ熱を頬に感じながら、相も変わらず飄々としている棗をキッと睨みつけて、風邪うつるやんけアホと小さく小さく呟いた。















ハイ終わっとけ!
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久しぶり過ぎますね棗蜜柑、というわけで勘弁してやってください・・・

2005,November 6




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