タイムカプセル





ミーンミーンと、夏定番の音が夜を支配していた。少し暑いくらいの温度が心地よい。 日向棗と、佐倉蜜柑、乃木流架、今井蛍という、いつもの4人が誰も居ない夜の学園を歩く。



「少し暑いね、でもこれくらいの温度が気持ちいいかも」

「そう…かしら?あたしは…まぁそう思うわ」

「どっちやねん蛍」



あははっと笑う蜜柑を軽く叩くと、蛍は手持ちのバッグからカメラを取り出す。 それを見た流架はいつもの嫌がらせを思い出し、少し引いた。



「引かないでよ流架君」

「いや…つい…くせで」

「くせって…何かされてるんか?流架ぴょん」

「されまくりだろ」



8月の夏休み。アリス学園は決して地獄ではないので、学園の外、つまり街に出る以外は自由にされている。 消灯時間もなく、寮の泊まりの行き来も許可されている。
もちろん、……夜の学園を歩くことも。

蜜柑が学園に来てから、約1年が過ぎて、色んなものが変わっていった。 荒れ果てたクラスが、今じゃあどのクラスよりも平和で温かい。 黒猫と呼ばれ避けられていた棗、最近では多くはないが笑う事もある。 他も…他も…佐倉蜜柑という存在が、癒した…。

決して、佐倉蜜柑はすごい人ではない。
そう、ただ___アリス学園の生徒や先生が忘れていた気持ちを、蜜柑が持っていただけ。

そんな佐倉蜜柑と友人3名は今、用があるから夜の学園を歩いている。



「なぁ、何処ら辺でやるんだ?あの木の近くとかか?」

「そんなに焦らないでよ日向君。場所は決めてあるわ」



えーっと不思議そうな声を出し、蜜柑は蛍に尋ねる。



「何処なん?」

「___あれ、あそこ」



指がさす先は、



「……湖?」



小さな水溜り。






昔からある、タイムカプセル。
それを蜜柑達は4人だけで作って、願い事を手紙に書き…。
学園の外に埋めようとした。

___思いでは大切に___






「水の中に埋めたら、このタイムカプセルくさっちゃうやん」

「腐ることはないわよ馬鹿」

「…普通タイムカプセルって土の中に埋めない?」

「普通はそうだろ」



蛍はわざとらしくため息を吐き、発明作品を鞄の中から取り出す。
丸い、シャボン玉のように透明なモノ。



「これ、私の発明品」

「何やこれ?シャボン玉のデカバージョン?」

「に、見えるな。今井、教えろよ何だこれ?」



棗がそう言った後、蛍は無言で自分達のタイムカプセルを……



「………」



そのシャボン玉に入れた。ぷわんっと音を立て、それが完全に中に入ると、 湖の中に埋もれていく。



「わぁ……」



「あの発明品はね、このタイムカプセルの為に作ったの。 土の中に埋めると、誰かに掘り返される危険があるでしょう? 水の中に入れれば、私達以外は必ず取り出す事はできないわ。 何故なら、目に見えないから」



蛍が説明した通り、水の中に入ってしまったタイムカプセルは透明のシャボン玉に覆われて 見えなくなっている。



「鍵があるわ。この鍵で私達が埋め返したいときに埋め返される。ね?便利でしょ?」

「す、すごいね今井…。そんな事までしてるなんて…」



本当にすごいと思ってはいなく、ただ呆れてしまった蜜柑達。
裏の裏をかく蛍は少し考えが人並みはずれている。



「ま、こんなものよ」






「タイムカプセルの手紙、皆は何書いたん?」

「私は…って何で言わなきゃいけないのよ」

「ええやん。教えてよー」

「そういうテメーは何書いたんだよ?」

「へ?ウチ?」



逆に聞かれた蜜柑は、少しとまどい、小声で……



「み、みんなとずっと一緒に居たいって書いたんやけど…」



そう言った。



「え……」「え?」「……は?」



三人同時に短く言葉を吐き出すと、いきなり笑い出した。



「そ、その願い…俺と同じ…」「私も、そう書いたわ…」「俺も…」



蛍と棗と流架が同時に言う。



「へ……?」





佐倉蜜柑

ウチはみんなと一緒にずっと居たいです。
ずっとアリス学園に居て、笑っていたいです。
鳴海先生や、蛍や…ムカつくけど棗とか流架ぴょんとかと。
これがウチの願いです。未来のウチラは笑っていられるかなぁ?



今井蛍

何故か私もこんなの書かなくちゃいけなくなってしまったわ。
あの馬鹿蜜柑……。
そうね、願い事…できれば今のクラスの皆と一緒に居られたらいいわ。
隣には蜜柑が居て、馬鹿馬鹿しく笑っていたい。
きっと今が一番幸せな時期なのかしら?永遠に続けばいいのに。



日向棗

得にないって書けば、あの水玉に怒られるから書く。
流架や水玉とか今井とかと笑っていたい。
それだけだ。



乃木流架

う〜んと…。本当に贅沢な願いだけど、棗達と未来も一緒に居たいな。
その時は、佐倉と棗の事、ちゃんと祝福してあげられるかな?
まぁ当分、棗には負けるつもりはないけど。






「つか掘り返すときに、ウチら…この願い覚えてるかな?」

「覚えて るわよ、絶対に」

「おいおい、覚えてたらタイムカプセルの意味なくねーか?」

「あーあ!願い事の手紙じゃなくて、大切なモノでもいれればよかったね」



笑い声が夜の学園に響く。この胸のドキドキが永遠に……。







「みんな、みーんな大好きや、ずっとずっと一緒にいような」



夏の夜はやがて静かになり、また明日に続く。








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††美色世界††さま(現:crossroadさま)のサイト1周年記念フリー小説を頂いてきました。 ルカぴょんの手紙がやけに強気で素敵です(笑) ウチになんか飾ってしまっていいのかわかりませんが(本当にな!)、サイト内の唯一の華である頂き物のページに素晴らしい作品がまたひとつ増えて感激です。 この素敵テキストを書かれた空草さまのサイトにはブックマークから飛べますので是非!




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