CHERISH***





「棗にはもう誕生日プレゼントなんかやらん!」



ドアを破壊しかねんばかりの勢いで乱暴にあけて、特力の教室に入ってきた蜜柑の、開口一番の台詞はこれだった。 あまりにけたたましい音を立てた目の前の扉に、一足先にここへ来ていた翼と美咲は何だ何だと顔を上げたが、 そんな彼らの様子に構うこともなく、蜜柑は尚も荒い口調で言葉を続ける。



「あー腹立つわ!人の好意を何やと思っとんねん嫌味狐が!」
「まーまー蜜柑、何があったのかは知らねーけど、とりあえず落ち着けって」




翼はのろのろと蜜柑の傍へ寄ると、屈んでその顔を覗き込んだ。
冗談交じりに、「お前あんなに乱暴に戸開けやがって、ドアが泣いてるぜー」なんて言ってみたものの、彼女が見せた表情に思わずぎょっとした。
てっきり怒り心頭なのかと思いきや、唇はへの字に結ばれて今にも泣きそうで。
思いもしなかったその様子に何と声を掛けていいのかわからず、縋るようにちらりと美咲の方を見ると、彼女もその様子を察したのか蜜柑の傍に近づいた。そして、ゆっくりとした動作で、なだめるようにその小さな頭に触れた。



「蜜柑ーどうしたんだよ、何かあったの?」
「せんぱい〜…」




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「…でなっ、誕生日何が欲しい?って聞いたら棗の奴なんて言いよったと思う!?「いらねー、ブスから貰いてーモンなんかねーよ」やで!」



いつもの調子を取り戻してきたのか、ご丁寧にも棗の物真似付きで事の粗筋を説明する蜜柑に苦笑しつつも、その様子に内心翼と美咲はほっとしていた。
だってやっぱり彼らにしてみたら、可愛がっている後輩が泣かされた、となると、いくら日向棗でも許しがたくあったりもする。 とは言っても、棗のその行動はすきな子をいじめたくなる、とかそういう類のことであるのは重々分かっているのだけれど。



「まあまあ、そうカリカリすんなって、な?」
「だって腹立つやんかー・・・あーもう、ルカぴょんやったらあんな言い方絶対せーへんのに!あの2人いっつも一緒におるくせにホンマ性格は正反対やわ!」



蜜柑の口から飛び出た「ルカぴょん」の言葉に翼と美咲は思わず顔を見合わせた。
蜜柑と棗、それに流架を含めた3人の間に、微妙なトライアングルが成り立っていることも、彼らは一連の出来事の中でしっかり感づいていた。 当然の如く、彼らの性質からして"人の色恋沙汰"なんて面白そうなものに、首を突っ込まないわけがない。
「ルカぴょんを温かく見守る会」と称した会合を結成してみたり、事ある度に蜜柑に関して棗を挑発してみたりと、随分楽しんでいるようだった。
勿論、3人の関係を引っ掻き回しているわけではなく、上手くいって欲しいと言う思いが、根底にはちゃあんとあるのだけれど。



「ルカぴょんの事はともかく、何でまた棗の誕生日を祝ってやる気になったんだよ」
「…何だかんだ言って迷惑かけたりもしたし、まあお詫びも兼ねてみたいな感じやってんけど…」
< 「へえ」
「でも、あいつ・・・ウチのことやっぱり嫌いみたいやから、そんなモンいらんって言われてもしゃあないんかもしれん」



嫌いな奴からのプレゼントなんてありがた迷惑って言われたし。何処となく苦い顔をして、蜜柑はそう呟いた。



(「嫌い」って、もしかしてそれで泣きそうになってたんじゃねえの?)
翼は蜜柑に聞こえないように、美咲に小さく耳打ちした。
< (・・・っぽいね)
甘酸っぱいなーもう!と、ふざけながら、ひとしきりにやにやと笑うと、ふたりは緩んだ口元をなんとかおさえながら次の言葉を探した。



「いやアイツが蜜柑のこと嫌いな訳ねーって」
「・・・なんで?」
「そりゃあまあ・・・俺らには分かるんだよ、なあ美咲」
「そうそう、だから心配しなくても大丈夫、気にする必要ないよ」
「ちゃうで!べっ別に気にしてる訳ちゃうねんで!
だって大体ウチかてあんな奴なんか・・・」
「「あんな奴なんか?」」



図ったかのように声を揃えた翼と美咲は、口元の緩みを押さえきれずに含みのある笑みを浮かべ、生暖かい視線を蜜柑に向けた。 そして彼女の次の言葉に期待する。



「・・・ちょ、何や先輩ら!何でそんな半笑いなんよ!」
「半笑い?蜜柑の気のせいだろー」
「気のせいちゃうよ、めっちゃニヤニヤしてるやん!」
「失礼な!元々こんな顔なんだよ俺」
「それで?「あんな奴なんか」の続きは如何なるものなの?」
「・・・つ、続きなんかあらへんもん!も、もういいわ!」



耳まで真っ赤に染めてそう言い捨て、逃げるように教室を飛び出した蜜柑を、 ふたりはやはり生暖かい視線で見送る。遠ざかる足音が完全に消えたのがわかると、堰を切ったかのようにケラケラと笑い出した。



「いやーちょっとからかいすぎたかな。でも、蜜柑には悪いけどおもしれー」
「ていうかさ、あたし達が初等部の時とは全然違うよね。
あたし達が蜜柑くらいのときなんてみんな恋愛なんて興味なかった気がするな」



興味が無いっていうよりかは、子供過ぎて分かんなかったんだろうけど。

美咲がそう言うと、翼は笑うのをやめて、「あー・・・」と言葉を濁した。
だってそう、自分はそれくらいの頃にはとうに―――目の前の彼女のことを。まあ、当の美咲本人はその気持ちにこれっぽっちも気付いていないみたいだけど。
それに、幸か不幸かは別として、美咲が恋愛にてんで興味がないというのはまあ、以前から知っているし。

(一応、そういう相手として一番近いところにはいると思うんだけどねー)



「何か言った?」
「・・・いや、俺も蜜柑のことからかえた義理じゃないかもなあ、って」
「は?何それ意味不明。蜜柑が何だって?一番近いところが何とか言ってなかった?」
「それはまあ、こっちの話だよ」



まあ気にすんな!と引き攣った笑みを浮かべて動揺している翼をよそに、気になるじゃん教えなよ!と、美咲は不満の声を上げた。
しどろもどろになりながら、「え、つまりその・・・物事にはタイミングってモンがあるから今は無理だけど、」そこまで言って翼は大袈裟に頭を掻くと、次の言葉に迷っているのか暫く唸っているようだった。
それから何時に無く真面目に、「ちゃんとそのうち言うから、さ」と美咲にやっと聞こえるくらいの声でぽつりと言った。





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何これ気持ち悪。翼美咲というよりむしろ翼→美咲?
気付けばお蔵入りになっているヨカーン
しっかし棗の誕生日ネタやるには時期がずれてますね。すみません。

December.23




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